明けましておめでとうございます。
コロナ禍の中、世界中の人々は、今までになく、新しい年への「願い」や「思い」を、心の中に強く抱いて、この新年を迎えたことでしょう。
元日であった昨夜、大学生の役者W君のお父様から電話を頂きました。
「星の王子さま」のDVDを観ていて、電話をせずにいられなくなったと。久しぶりに彼と長電話をしました。
W家の子どもたち2人は、それぞれに学校に行くのが辛い日々がありました。それでも家族でクリエの舞台に関わることで乗り越えて来ることが出来ました。今となっては、懐かしく貴重な経験だったことでしょう。
舞台上でキラキラと輝く役者たち、作品で描かれる世界観、そしてそれぞれの役者たちが抱える日常での様々な思い、それらが一つになってクリエの作品は作られていきます。
私がクリエの台本を書くときに根底にあるもの。それは、「それぞれの『私』が生まれ、今生きていること」が奇蹟でどれ程貴重で大切なことなのか。そして、それをどう未来につなげていくのか。そのために、『私』はどう生きていくのかというものです。
「星の王子さま」は、サン=テグジュペリによって、第二次世界大戦中に書かれました。彼は、その後、軍に志願し、地中海上空で戦死します。作品は、ユダヤ人の親友レオン ヴェルトに捧げられています。「大切なものは目には見えない」それを求め続けて欲しいという私たちへのメッセージと共に、会うことが叶わない親友への遺書でもあったと思うのです。当時、ユダヤ人は、身を隠す以外に生きる術がありませんでしたから。サン=テグジュペリの生前、英語で出版されましたが、原語であるフランス語での出版は、戦後になります。
コロナ禍の特別な年頭にあって、この作品をご覧になったW君のお父様が、「電話をせずにいられなかった」と。それは、嬉しくもあり、大変切なくもありました。作品作りが遠くに行ってしまった様な日々でしたから。
お父様との電話の後、W君からも電話をもらいました。20歳(大人)になったことの報告と、昨年5月のひたちなか公演中止を決定したあの3月29日のミーティングから、区切りがつけられず、まだ「終わっていない」と。
私も改めて
「命ある限り、作品作りをしていかなければ!!」
そう思いました。
「でも、それは、『今』では無いよね。」
とも。
濃厚な作品を、全霊を込めて作るには、「濃厚接触」で「密」な中、空気を共有しなければ出来ません。それが出来る日まで、役者たちも、視野を広げ、自分の感性を磨いて欲しい。皆で集まってお芝居や歌やダンスといった技術面を磨くのは、今は難しいけれど、一人一人が心を磨くのは出来るはずだから。そして、それこそが、クリエの魅力だよね。
そう伝えて、W君との電話を切りました。
多くの芸術家、そしてそれを支えてくださっている舞台監督、音響、照明等の舞台スタッフの方々、劇場やライブハウスなどハードを提供してくださっている方々、それぞれが、もう1年近く、自分の存在意義や芸術そのものの存在意義さえ問うている日々が続いています。そして、これからもしばらく続きそうです。
でも、芸術は、そして私たちは不要ではないはずです。こんな時代だからこそ、人々は、芸術を欲しているはずです。模索の中で形を変えて、細々と存在し続けることでしょう。そして、いつの日か、心置きなく作品作りが出来、多くの方々とそれを「生」で共有る日が必ず来るはずです。
芸術家とそれを支えてくださっている方々の中には、食べていくためには、別の仕事をしなければならない方もいらっしゃるでしょう。私たちも様々な模索をしながら、今を生きています。満席のお客様の拍手を思いながら、その日を楽しみに待っています。皆様も心待ちにしていてください。そして、いつか必ず劇場でお会いしましょう。
長くなりましたが、年頭のご挨拶といたします。
コロナの前の最後のひたちなか公演「星の王子さま」の写真をごらんください。